イングランドプレミアリーグリバプールFCと契約したFALKENの世界戦略とは?

WORLD SOCCER KING
11月号 掲載

今年7月、住友ゴム工業株式会社はリヴァプールと、タイヤブランド「FALKEN」(ファルケン)とのスポンサー契約を締結した。
世界有数の名門クラブとのパートナーシップに、彼らはどんな価値を見いだしているのか。 このプロジェクトを仕掛けた一人、西口氏に話を聞いた。

西口 豪一
(にしぐち・ひでかず)
住友ゴム工業株式会社
常務執行役員 経営企画部長
住友ゴム工業株式会社 常務執行役員 経営企画部長 西口豪一(にしぐち・ひでかず)

真の意味での伝統あるビッグクラブだと感じた

今年7月、住友ゴム工業が世界展開するタイヤブランド「ファルケン」と、リヴァプールとのパートナーシップ契約に至った経緯を教えていただけますか?

西口(以下N)──まず、「ファルケン」は立ち上げから34年目という、比較的新しいブランドなんですね。

34年目で「新しい」ですか?

N──そうです。私たちは「ダンロップ」というタイヤブランドも展開していますが、英国で生まれた「ダンロップ」が日本工場を設立したのが1909年。これが当社の起源です。ですから、「ダンロップ」のブランドには100年以上の歴史があるわけですよ。

なるほど。それに比べれば確かに〝新しい〞ですね。

N──そこで欧州のタイヤ市場を見ると、同じように長い歴史を持つ伝統的なブランドがいくつもあります。自動車産業発祥の地ですからね。そこで、私たちは全く違うキャラクターで勝負しようと考えたわけです。「ファルケン」は「オン・ザ・パルス」というブランドメッセージを掲げていますが、その名のとおり、鼓動を感じる、エキサイティングで躍動感のあるブランドとして「ファルケン」を育てていこうと思ったんです。

そこにタイミングよく、リヴァプールとの話が出てきたということですか?

N──私たちは2015年からブンデスリーガのインゴルシュタットとパートナーシップ契を結んでいまして、以前からフットボールを活用したブランディングに手応えを感じていたんですね。ドイツ国内での認知度が目に見えてアップしてきた。それなら次は英国だろうと考えているところで、リヴァプールが候補に上がってきたんです。

リヴァプール1

契約までは順調に進んだのでしょうか? 社内で反対意見が出たりしませんでしたか?

N──スムーズでしたよ。一つは、すでにインゴルシュタットで成果が出ていたこと。もう一つは、リヴァプールの世界的な影響力です。彼らは単に強いクラブというだけでなく、100年以上の歴史があり、しかもクラブに関わるすべての人たちを大切にする、真の意味での伝統あるビッグクラブだと感じました。「ファルケン」ブランドが目指している〝躍動感〞や〝誠実さ〞という点でも共感するものがありました。

7月、香港でリヴァプールと共同発表会を行いました。どのような反応がありましたか?

N──かなりの反応がありました。これまで、当社に関する報道は自動車業界内にとどまっていたんですが、今回のパートナーシップはスポーツ系や一般のメディアを通して、多くの方々の目に触れました。SNSなどでも、私たちのパートナーシップを歓迎する声をたくさんいただきました。それから、リヴァプールは日本だけでなく、アジアにファンが多いんですね。実はタイに私たちのグループ最大のタイヤ工場があるんですが、タイでは有力新聞に今回の契約についての記事が掲載されました。非常にポジティブな反応が多くて、リヴァプールファンの皆さんの熱さを感じました。

我々も「サッカーキング」のサイトで発表会の記事を掲載しましたが、ダニエル・スタリッジ、モハメド・サラーといった選手が参加していて、「盛り上がっているなあ」と思いました。

N──実を言うと、発表会の時はリヴァプールが協力してくれて、ピーター・ムーアCEOや、所属選手が参加してくれたんです。当初の予定にはなかったのに(笑)。 リヴァプール 香港で行われた共同発表会。左から山本悟氏(住友ゴム工業株式会社 取締役常務執行役員)、ピーター・ムーア氏(リヴァプールCEO)、ダニエル・スタリッジ、ナサニエル・クライン、モハメド・サラー、ジョエル・マティプ、ビリー・ホーガン氏(リヴァプールCCO兼マネージングディレクター)

そんな裏側があったんですか?

N──そういったところで、リヴァプールというクラブの誠実さ、温かさを感じました。やはり、100年も続いているフットボールクラブには、ファンを大切にする精神があるんでしょうね。逆に言えば、そうでなければ100年も続かないということかもしれません。リヴァプールと契約して本当によかったと思いましたね。

新しい試みに挑戦してシナジー効果を期待したい

リヴァプール2

フットボールを活用したマーケティングのどこに魅力を感じていらっしゃいますか?

N──ビジネス的な観点で言えば、フットボールは世界的なファンの数、テレビ視聴者数で群を抜いています。当然、宣伝効果が非常に高いわけですね。タイヤメーカーのPR活動と言うと、第一にモータースポーツなんですよ。私たちもモータースポーツ活動は長く続けていますが、より一般的に「ファルケン」の名前が知られるようになるためには、スポーツの力は非常に大きいと考えています。中でもフットボールは、日本でも欧州でもアジアでも、子供から大人までみんな熱狂しますよね。男女問わず、年齢も問わず、みんなが素直に入り込んで熱くなって、ゴールが決まれば思わず「やったー!」と声を挙げますそういった部分は、情熱、躍動感、常にチャレンジしていく、という「ファルケン」のブランドイメージとも重なりますしね。

消費者にブランドイメージを持ってもらうというのは、つまりタイヤという商品を見ただけでは、素人にはなかなか違いが分かりにくいという……。

N──そうなんです。タイヤは差異化が難しい商品なんですよ。世界的にも多くのタイヤブランドがありますが、消費者の側から見た時に、商品の違いが分かりにくくなっているのではないか、という気持ちがあります。ですから私たちは「ファルケン」というブランドで、もっとワクワクするようなことをやろうじゃないかと。パッションを感じられる、個性的なタイヤを作っていきたいんですね。「ファルケン」ブランドを選んでくれた方々に、よりエキサイティングなカーライフを提供していきたいと思っています。

まだ始まったばかりだと思いますが、今後、このパートナーシップを通じて取り組みたいことはありますか?

N──リヴァプールは世界的な知名度があるだけでなく、世界中のファンに情報を届けるデジタル・コミュニケーションに長けていますよね。私たちもそのノウハウを学び、顧客との接点を強化することで、このパートナシップのシナジー効果を期待できると思っています。例えば販売にしても、ネットで「ファルケン」をもっと買えるようにするとか、これまでと違う試み、新しいマーケティングに挑戦しようと考えています。

では最後に、リヴァプール、ひいてはスポーツへの協賛活動をどのように展開していくつもりなのか、今後のビジョンを教えていただけますか?

N──私たちはリヴァプールとのパートナーシップの他にも、レッドブル・エアレースで活躍する日本人パイロットへのパートナーシップ、モータースポーツ活動への参画を通じて、ユニークなブランドイメージを目指しています。将来的には、これらのスポーツマーケティングから得られたノウハウを活かして、商品開発やサービスについても、もっとワクワクするような価値を提案していきたいですね。また先日発表したダンロップスポーツ社の事業統合により、今後はスポーツ事業の強化も図っていきます。

なるほど。「ダンロップ」と言えばゴルフやテニスのスポーツブランドとしても有名ですね。

N──そうなんです。当社はもともとスポーツが得意分野ですし、ゴルフやテニスでもパートナーシップ契約の意義を肌で理解しています。社風と言いますか、感性的にスポーツの価値を分かっている社員がたくさんいます。だから今回も、「お、リヴァプールか。いいね!」という具合に話が進んだんです(笑)。

WORLD SOCCER KING 11月号 掲載

インタビュー=坂本 聡 
Interview by Satoshi SAKAMOTO

写真=安田健示(フォトレイド) 
Photo by Kenji YASUDA / Photoraid